西郷は東京に帰り、忌引きを早めに切り上げて出社した。
「おお、西郷。もういいのか。大変だったな」
「いえ。突然でご迷惑をおかけしました」
上司の大江は西郷の肩をたたいた。
「ちょっと大江さん。相談があるんですがいいですか?」
「何だ?」
「あの、『タラコデータv8.7』なんですけど」
「うん。サーバーの組み換えはまだ急がなくていいよ。リフレッシュ担当が遅れてまだ全然手がついてないんだ」
「それが、その中に大事な写真が入っているかもしれなくて、探してもいいですか?」
「え?」
西郷の勤める会社は、サーバー保守運用サービスを提供している。インターネット上に写真データを保存できる『タラコデータ』サービスの提供元の会社だった。
「そういうわけか。そのアカウントはわかっているんだな。まあ、パスワードがあれば、まだ取り出すことができるだろう。それくらいいいだろう。ただし一応その場におれも立ち会うぞ」
「ありがとうございます。お願いします」
大江は、面倒見のいい上司だった。そして、まさにタラコデータサービスの運用担当の責任者であった。大江と西郷はサーバールームへ向かった。
サーバールームでは、たくさんの機器が静かなうなりを上げている。その隅にあるサーバーの一つに、ノートパソコンを接続した。
「運がよかったな。もしその今井さんが使ったのがGoogleのサービスだったとしたら、おまえアメリカのデータセンターに行かないといけなかったかもしれないぞ」
「Googleだったらサービス閉鎖されないでしょ」
「たまたま、リフレッシュ担当が先週から軒並みインフルエンザで休んでてな。作業が遅れていたんだ。本当に運がいいよ。おやじさんがそうさせたのかな」
「死んでからインフルエンザ移してくるなんて、嫌なオヤジですね」
大江はノートパソコンから、サーバーにログインする。サービスの管理画面が開いた。
アカウント名とパスワードを入力する。
すると画面には、今井が撮った大量の写真が現れた。
大江はノートパソコンを西郷に渡した。
西郷は、ふるえる手で写真をスクロールしていった。
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