最後の一枚を追え 3話

システム

「こんばんは。西郷さんですか。あの記事を書いたのは私です」

野市は、あの記事は9年前の春に行った地域の特集で、自分が取材に行ったのだと言った。

「お父さんの最後の一枚というお話を聞いて、ぜひ見つけてさしあげたいと思ったのですが、あいにくデータが残っていませんで。当時のカメラマンに連絡を取ってみたら、来てくれというんですが。ごいっしょにどうですか」

「じゃあ……お願いします」

西郷は、なんだか動き出してしまった電車に乗せられているような気持ちでうなずいた。

野市が連絡を取ったカメラマンは、もう引退していた。もともとフリーランスのカメラマンで、自宅に写真のデータが残っているという。

「おう、来たね」

カメラマンは今井といった。少し足が悪いような歩き方をしている。今井は、二人を書斎に通した。本棚にぎっしりとファイルが詰まっている。

今井は本棚を見上げ、ある一段を指さした。

「ここらへんにあると思うんだけど。ぐちゃぐちゃにしない程度に探していいよ」

西郷と野市は、ファイルを開けてあの写真を探した。今井は、今まで撮った写真の掲載物をスクラップブッキングにしてファイルにおさめていた。

何せ膨大な量だ。なかなか見つからない。

「2010年の1月、このあたりじゃないですか?」

野市が開いたページを指さした。西郷は思わずのぞき込むが、目的の写真は見つからなかった。

「他にはありませんか?」

「うーん、あとはパソコンのバックアップデータかな」

9年前のデータはどこかにしまったDVDに保存されているという。

「消しちゃったやつもあるけど、新聞に載ったやつならあるかもしれない」

そう言って、しばらく部屋の中をごそごそ探し、やがて大量のディスクが入った箱を持ってきた。

そして、パソコンを開いてディスクの中身を確認していった。

今井は疲れたからといって書斎を離れた。野市も社からの呼び出しがあり帰っていった。西郷はパソコンを借りて、ひたすら写真をチェックしていった。

今井が撮った、目の覚めるような写真がいくつも並んでいる。

仲睦まじそうな家族写真も多かった。

父親に抱っこされた子どもが大きな口を開けて笑っている。こんな家庭もあるんだな。いや、もしかしたらうちだって、これくらい小さい頃はこんな感じだったかもしれない。西郷は心のうちにつぶやいた。

漁師だろうか、似た顔の中年男性と青年が二人で船に乗っている写真があった。親子で同じ職業なんて、ずいぶんと距離の近い家族だな。うちだったら無理だな。そもそも親父は定職についてないし。そういえば一回くらい漁師のバイトもやってたっけな。

あんなに疎ましかった父だがなぜか今、西郷はその写真を取り戻すことに一生懸命になっていた。

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