最後の一枚を追え 1話

システム

それは突然の知らせだった。

西郷はそのとき仕事中で、その電話を取り損ねていた。

留守電の「ピー」という発信音の後に入っていたメッセージで、西郷は父の死を知った。

もう何十年も、連絡さえとっていなかった。それでもショックを受けしばし茫然とした後に、忌引き休暇を申請し、新幹線の切符を取って、東北地方の実家に帰った。

父は独り暮らしであった。近所の人が警察に通報して発見されたらしい。

「よく来てくれたましたね。何年も帰ってなかったとうかがいましたが」

「ええまあ」

西郷と父が疎遠だったことは近所にも知られている。昔から折り合いが悪く、母が早くに亡くなってからすぐ逃げるように実家を出た。父方の親戚は名前すら知らなかった。

孤独死であったらしい。西郷は、その現場を見たいとも思わなかった。実家の片づけと葬儀の業者を手配した。

そこから先は、西郷はあまり記憶がはっきりしていなかった。誰に何を言われたのかも何を言ったのかも定かではない。

「遺影用の写真もないとはね」

「ええ、ないですね」

ふと我に返って、西郷は聞き返した。

「何だって?」

「写真だよ。一枚も残っていないってね。おやじさんの写真、持っているかい?」

気づけば、実家の片づけも終わり、発見されたわずかな貴重品だけが手渡されていた。清掃業者は帰ってしまい、空っぽになった実家で、立ち会ってくれた近所のおじさんがつぶやいたのだ。

「写真か……」

西郷も父の写真は持っていなかった。実家にもアルバムや写真の類はなかったようだった。

もう今後父の顔を見ることはない。物理的に無いのだ。

父は、基本的に何事にも無関心な男であった。定職につかずフラフラとしていた。酒だけは好きで、よく一人で焼酎を飲んでは文字通りフラフラしていた。

「それで雪のつもりかよ」

西郷が小学生のころ、家でお正月の絵日記を書いていたことがあった。父は酔ってその絵日記を取り上げて文句をつけ、マヨネーズで絵を塗りつぶしてしまったことがあった。

「ほら、これで雪らしくなっただろ!」

酩酊していた父にとっては、悪ふざけにすぎなかったのかもしれない。でも、西郷にとってはそれがきっかけとなり、父が大嫌いになった。ついでにマヨネーズも。

わずかな遺品を持ってホテルに帰った。行く道沿いには空き家が多かった。実家もすぐこうなるのか。

そんな気持ちで半ばごみ屋敷のようになった空き家を見つめていた。

「……!?」

西郷はその家の軒先にある植木鉢に目を止めた。その植木鉢は、中途半端に新聞でくるんであった。雨風にさらされてずいぶんぼろぼろになっていたが、その新聞の写真が目に飛び込んできたのだ。

西郷は思わずそこに歩み寄り、その植木鉢の前にしゃがみこんだ。

そこに写っていたのは、在りし日の父だった。

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