中島とはずっと仲がいい。高校生になっても同じ学校で、同じ釣り部に入った。
僕は昔から魚が好きで、さらに自然も好きだけど運動は苦手で、釣りは本当に性が合うとしか言いようがなかった。
釣り部は少人数で、僕と中島と3年生の先輩が2人で4人しかいなかった。
新しい学校にもそれなりになじみ、僕もそれなりに友達が増えていた。
当時、個人のプロフィールや日記を書けるSNSが流行り始めたが、そういうWeb上のコミュニケーションもそつなくこなしていた。
ちょっとかわいい女子とミクシィでつながったりすると、なんともワクワクしながら毎日日記をチェックしたりしていた。
ただ、僕のほうはあまり載せる内容がなかった。しいて言えば釣りの話やテレビの話くらいだ。
そんなある日、知らないアドレスからメールが来た。
件名は、「【深刻なお願いです】某アイドルのマネージャーです」だ。
なお、僕は当時10代の歌って踊れる女性シンガーの大ファンだった。出るドラマは録画し、その人が出なくても映像が流れるかもしれないから歌番組という歌番組も必ず見ていた。だから、有名なアイドルはだいたい知っている。でもまさか?
本文はこんな出だし。
「突然ご連絡を差し上げて申し訳ありません。でも、本当に深刻なお願いがあってあなたにメールを差し上げました。私は某有名アイドルのマネージャーです。公になると困るので名前は出せませんが、テレビにもよく出ている歌ってダンスをする10代の女性アイドルです。月9のドラマにも出ています」
え、まさかまさか。いやいや、まてよ。
「実はそのアイドルが、忙しさや人間関係から精神的に病んでしまい、仕事をするのも大変になってきてしまいました。毎日泣きながら現場に行っています。彼女には、仕事関係の人しかいません。でも今は安定して話しを聞いてくれる誰かの存在が必要なのです。」
ふと、大好きな女性シンガーがつらそうな顔で歩く姿を想像してしまった。かわいそう! そしてかわいい!!
「マネージャーである私にも彼女は心を開きません。そして日に日に弱っていくので、メールで誰か話を聞いてくれる人を探すことにしました。そこであなたにお願いなのです。どうかあなたにメール友達として彼女の相談に乗ってあげてはくれないでしょうか?」
えええ!!! ほんと?
「どうかお願いです。とても深刻な状態なのです。もちろん引き受けていただけたらお礼は差し上げます。毎月5万円を相談料として振り込みます。どうかお願いします。彼女を助けてあげてください」
どうにも刺激の強い内容だった。
くらくらして、僕はメールから目が離せなかった。何度も何度も読み直した。この人は本当に困っている。そしてそのアイドルの女の子も。じゃないとこんな長いメールはそう書かない。知らないアドレスに片っ端からメールを送っているのだろうか? それがたまたま僕に当たったなんて、すごいことだ。誰だかわからないけど(きっとあのシンガーだ)、助けてあげられるなら助けてあげたい。
しかもお金ももらえるんだな。でもどうしよう、僕は銀行口座なんて持っていない。お母さんにこっそり相談しようかな。でもアイドルの子のことがばれちゃまずいし……。
僕は、返信ボタンを押して返信の内容を考え始めた。でも、考えがまとまらなかった。いいですよ、と書いても、銀行口座はどうしよう? 銀行口座についてなんて考えたこともなかった。
ひとまず、携帯を持って外に出た。ダメ元で銀行に行ってみようかな。
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