「まだやってるのか」
今井が様子を見に来たのは1時間後だった。
西郷は、目をしぱしぱさせながらそちらを見た。
「見つからないんです。すみません」
「データはな、溜まってきたら全部DVDに焼いてHDDから消すようにしているんだ。HDDにあんまり溜めておくと壊れた時が怖いから。だから時期ごとに焼いてるから、探しやすいかと思ったんだけどね」
「それが、なんだかその時期のDVDがないようなんです。2009年の12月まではあるんですが、そのあとが間があいてて、次は4月なんですよ」
今井は、足を引きずりながらやってきてパソコンをのぞいた。
「ええ? あれあれ。なんでだったかなあ」
しばらく考えたあと、「ああ」と小さく声を出した。
「そうだったそうだった。その年、インターネット上に保存してたんだった」
「インターネット?」
「そうそう、インターネットサイトにデータを置いておけるってやつが流行っただろう。そのとき、試してみるかと思ってそっちに置いたんだ。すぐにやめちゃったんだけどね」
「今でもアクセスできますか?」
今井はまたごそごそと部屋を探して、手帳を持ってきた。
「『タラコデータ』ってサイトなんだ。これでアクセスできるだろう」
手帳にはアカウントとパスワードが書いてあった。
「ああ……残念、このサービスは閉鎖されてしまっている」
今井がうなった。サービスの閉鎖はつい先月のことだった。
「すまないな。これじゃデータは消えちゃったみたいだ……」
「今井さん。このアカウント名とパスワード、借りてもいいですか? まだデータが取り出せるかもしれないので」
「どうするんだ?」
「この会社に行ってみます」
「かまわないが……。そこまでするなんて、いいおやじさんだったんだな」
「いえ。ぐうたらで苦労ばっかりかけるクソオヤジでしたよ」
今井は目を丸くして、そのあと笑った。
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