彼女は、彼が歩いていくのを見送ったあと、もう一度スマホを見直した。確かにこれは、元彼の前につきあっていた元元彼だ。こちらの彼は、大学のサークル仲間で、卒業後のOB会をきっかけに付き合いだして、わりと短い期間で別れてしまったのだった。
『久しぶり! こんどのOB会、来るの?』
短いメッセージだった。
あっさりした付き合いだったからか、あまりイヤな思い出も残っていない間柄だったが、連絡をとるのは数年ぶりだ。
彼女はあっさりと返事を返した。
『久しぶり! OB会あるの? 行けたら行こうかな』
きっと、行かないだろう。
『来ないのね』
『まあそれはいいけど』
『元気にしてる?』
元元彼から短文のメッセージが矢継ぎ早に届いた。そういうところ、変わっていない。
『急でごめんけど』
『明日ひまある?』
『なんか懐かしくて』
連発されるメッセージに彼女は少し微笑んだ。そうして、彼女は元元彼と二人で会う約束をした。
元元彼も元気そうにしていた。こちらも、特に大病や人生に行き詰った暗い影は見えない。
彼女は、元彼のことや先のことを考えるでもなく、たわいのないデートを楽しんだ。大学に遊びに行って、懐かしいキャンパスを歩き回ったりした。しかし、
「仕事の呼び出しだ」
元元彼は今、不動産販売会社で営業をしているらしい。仕事用のスマホを取り出して何やらぶつぶつつぶやくと、立ち上がり、もう行かなくてはならないと言った。
「ごめんな。でも、連絡ありがと。よかったらまた会おう」
「いいよ。こちらこそ、連絡ありがと」
そのとき。
「ピポピポピ」
彼女のスマホが鳴った。元元彼は、手を振って急ぎ足で去っていった。キャンパスのベンチに取り残された彼女は、スマホを見た。
「うそ」
彼女は目を疑った。そのメッセージは、元元彼の前につきあっていた、元元元彼からだったのだ。
『最近どうしてるの? 相変わらず仕事がんばってる? 自分は転職して今海外転勤だよ』
この元元元彼は、社外研修で知り合った一回り年上の彼だった。彼はとても大人に見え、憧れに近い感情で付き合っていた。
『いきなりどうしたの? 今どこにいるの?』
胸が鳴る。驚きすぎて手が震えている。彼女は、メッセージを書いたがすぐに削除した。
深呼吸する。
何かがおかしい。
これはどういうことなのだ。
なぜ、こうも連続で昔の恋人たちから連絡が来るのか。
何かのモテ期なのか。それとも星の運命か。
人生の選択を間違わないように、占い師に見てもらったほうがいいかもしれない。
しかし彼女は、腕利きの占い師に当てはなかった。
代わりに、よく一緒に飲み歩く女友達に連絡を取った。
『ヘルプ…… よくわからないことが起きてる』
女友達の返信は速かった。
『どうしたどうした! 聞くよー』
彼女は、帰り道すがらメッセージで今の状況を説明し、家について電話をしたのだ。
「元彼から連絡が来たんだよね。2人までならまだ偶然かなってなるけど」
女友達は、電話の向こう側でうなっている。
「なんだろうね。それ」
この女友達は、工房で鉄鍋を作る仕事をしている。とにかくさっぱりした性格で、流行りのインスタもやらず、まだ若いのに昔ながらの職人気質なところがある。
「別にこっちから連絡したわけじゃないんでしょ? なんかあんたのことが新聞に載ったとかは?」
「ないない。別に普通だよ」
二人で頭をひねったが、偶然が重なった、以外の結論は出てこなかった。
『今週末は時間ある?』
火曜の夜のこと、元彼から連絡があった。
『あるけど』
元彼に返信をして、思い出した。元元元彼には返信をしていなかった。でも、それもいいとしよう。彼は一回り年上だから、もう結婚のひとつもしているかもしれないし。
『じゃ、また会おうよ こんどは飲みにいこう』
『いいよ』
そのとき、スマホの画面に割り込んできたメッセージがあった。
彼女は今度という今度こそ、背筋がぞっとした。
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