「TB-2950の在庫は破棄します」
TB-2950は合同冷蔵庫のナンバーだ。ニュースを読み上げる声がタイムオーバーを告げた。男はその場でがっくりと座り込んでしまった。
「あーあ、高かったのに……」
ふと、火にかけたカレーをすっかり忘れていたことに気がついた。カレーはすっかりこげついてしまっていた。
「もう、ふんだりけったりだ。何食べようかな」
そう言って、男はいやな予感がした。
「待てよ、冷蔵庫の中身が破棄されたってことは、今、食べられるものが何もないんじゃ……」
米や乾物などはあるが、生鮮食品は家にはない。スーパーに行ってみると、店内は客でごった返していて、肉や野菜が軒並み売り切れていた。
「困った、困った」
「いつになったら直るというんだ」
「何もかも売り切れてるじゃないか」
客たちはぶつぶつ言いながら店内をゆっくり進んでいた。まるで通勤のラッシュアワー状態だ。そこに、店員のアナウンスが響いた。
「卵を入荷しましたー! 限定200個の入荷です!」
すると、客たちはどっと卵売り場の方へ移動し始めた。男はもみくちゃになりながらも死に物狂いで体勢を保ちながら、流れに乗って移動していく。
「卵の販売は、14時からです!」
卵売り場の前では、客がぎちぎちに詰め合っていてお互いに小競り合いながらポジション争いをしていた。
男も必死で前へ進んでいく。店内の気温も高くなっているうえ、客同士で肌が密着してこのうえなく不快な状況だが、食べ物には代えられない。
14時が近づくにつれ、客たちは殺気立ってきた。
そして、こちらも修羅場の覚悟を決めたのであろう、ぎらぎらした目をした店員がバックヤードのドアを開けた。
「安全確保のため、ロープを張らせていただきます!」
客たちはあふれ出る殺気を抑えることはなかったが、店員はそれを鋼の心持ちで押しのけ、売り場のスペースを確保するためのロープを張った。
そしてとうとうその時が来た。
「14時です! 卵の販売を開始します!」
雄たけびのような店員の声と同時に、バックヤードから卵をのせたカートが登場した。
それはもはやデスマッチ開始のゴングであった。
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