合同冷蔵庫は、1日経って復旧した。
あの日の混乱ぶりはさほど大きく取り上げられることもなく、日々の地域ニュースの中に沈下していった。
平和を取り戻した男は妻と一緒に夕飯をとっていた。そのときテレビからニュースが流れてきた。ふと男はそれに耳を止め、思わず画面を凝視した。
「合同冷蔵庫の破棄食材、転売される」
という見出しで画面に映っていたのは、転売サイトに出品された商品の写真であった。それは、どこか見覚えのある高級A5ランクの牛肉であった。
転売をしたのは、冷蔵庫内作業を請け負っていた作業員の一人で、食材の破棄があるとたびたび盗んで転売していたらしい。
「高級な肉だったので高く売れると思った。他の作業員の目を盗んで持ち出していた」と話しているという。
目を丸くしている男に向かって妻は言った。
「これ、あんたの牛肉かもね」
「なんてずさんな管理なんだ。でも真夏に常温保存していたんだから悪くなっているに違いない。落札者は今頃トイレにかけこんでいるかもしれない」
「病院にかけこんでいるかも」
「何でおれが罪悪感を感じなきゃならんのだ。悪いのは盗んだ作業員だろ。それに、管理側も廃棄前と後の量をきちんと確認でもすればいいじゃないか」
男はテレビ画面から目を背け、冷たいビールをのどに流し込んだ。
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